伸背もたれに身をあずけ、目をつむってみた。
実際の寝返りは無意識なので再現できないが、
「あああ」とけだるい溜め息をつくと、
体が自然とひねられる。
確かに腕ではなく、
脇の下が伸び、
体がひねられ、
そのために腕が移動してその重みで体が返っている。
人間の動きは、
手足の細かい筋肉より、
外腹斜筋のような大きい筋肉を使ったほうが楽なのである。
水中では脇を解放すべし。
これまでの陸上人生、私は事あるごとに「脇が甘い」と言われてきた。
「もっと脇をしめてかかれ」と。
身を守るためにそうしてきたのだが、最早その必要はない。
甘く解き放ってあげればいいのである。
ところで腰は動かさなくていいんですか?
「高橋さんの動きはこうです」
桂コーチは立ち上がり、私の真似をした。
フラダンスのように腰だけくねくねふっている。
「バカみたいでしょ」と言わんばかりに彼女は腰をふった。
「そんな感じですか、私?」
「そうです。これでは意味ありません。こうではなくて、こうです」
彼女はしっかり腰を据え、
両腕を水平に広げ、
体を左右にひねった。
「ほら、こうすれば伸びるでしょ、外腹斜筋が」
喫茶店のお客さんたちも見つめる中、桂コーチはひねり続けた。
この脇の解放が水中ではエンジンになるのである。
それにしても彼女のこの肉体感覚は、
一体どこから来るのだろうか。
桂コーチは水泳選手を引退後、大事故に遭っていた。
赤信号で停車中に後ろからトラツクに迫突され、
前に停まっていた車との間に挟まれてしまったのである。
全身打撲により、
彼女はしばらく体がまったく動かせない状態が続いた。
動かそうとすると全身に激痛が走り、
寝たきり状態を余儀なくされたらしい。
そこで彼女は痛みをこらえながら、
プールでリハビリを行なったのだという。
「動けなくなって初めて、
体を動かすということがどういうことかわかったんです。
どこかが動くということは、
結果的にそう見えているだけで、
そこを動かすことじやなかったんです」
一般に水泳は、腕を伸ばし、肩を回し、
足で蹴って進むものと考えられている。
しかし桂コーチによれば、それらは見た目の結果にすぎない。
全身の力を抜き、
脇を交互に伸ばしながら体をひねる。
これを繰り返せば、結果は自ずと表われるのだ。
「”きれいな泳ぎですね”と人に言われたら、こう答えればいいんです。
”いや、泳いでませんよ、
僕は伸びてるだけですよ”と」
「なるほど」
引用元
はい、泳げません
⇒楽譜がまったく読めません。そんな私でも大丈夫ですか?
もちろん大丈夫です。むしろそのような方に向けて作りました。
⇒レッスンのはじめには、
秘密の楽譜の読み方をお教えしますし、
私たちのマネをすればいいだけのマネっこ練習法もあります。